The Mass is ended; go in peace.

一年前の日記で、クリスマスの朝に『ドイツ・レクィエム』を知ってから、1年が経った。その後、ほぼ日課のようにこの曲を聴いて、2009年ではダントツに聴いた曲となった。少なく数えても、3日に一度の割合では聴いていたな。

ナップスターには10数種の音源があるのだが、一番シックリ来たのは、カール・シューリヒト&シュトゥットガルト放送響。1959年のモノラル録音なのだが、音がフラットながらも、まるで天上から降ってくるような響きが良かった。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/1781802

まぁところで。クリスマスというと、必ず聴く曲がある。バーンスタイン作曲の『ミサ曲』だ。

レナード・バーンスタインといえば、言わずと知れた大指揮者なのだが、彼が作曲家でもあったことを思い出せる人は少ないだろう。しかも、その数少ない人もほとんどは、「ウェスト・サイド物語」のミュージカル作曲家という印象だろう。しかしバーンスタインは、交響曲も3曲を残した、真っ当な意味でのアメリカ人現代作曲家の1人であった。

現代音楽家としては耳に馴染みやすい音階を使い、かといってポピュラリティすぎず、シリアス・ミュージックとしても鑑賞に堪えるものを生み出し、とにかくそのヴァランスが優れていた。3曲の交響曲をはじめとして、彼の作品はひととおり聴いたが、どれも自分好みのツボにちょうど入る、いい作曲家だった。彼の逝去の直前、指揮者を引退して作曲活動に専念すると宣言して、自分は小躍りしたくらい嬉しかったのだが、それから1週間くらいで亡くなってしまった。訃報は、指揮者の死というより作曲家の死として受け止めたものだった。

その中でも、圧倒的な傑作がこの『ミサ曲』だ。演奏時間は100分を越える大作。もともとは、1971年にワシントンのジョン・F・ケネディセンターのオープニングのための演奏芸術作品として作曲された。「歌い手、演奏家、ダンサーのための劇場用作品」というただし書きのとおり、オーケストラだけの器楽曲ではなく、歌あり、ダンスありの、オペラとミュージカルの中間のような作品だ。オーケストラ、ジャズ、ブルース、ロックなどのさまざまな音楽が全編を埋め尽くしている。「アメリカ」の音楽の歴史が、ギュギュっと1作の中に詰め込まれている、壮大な作品なのだ。1970年ごろの作曲ということで、フラワームーブメントの影響をここに見ることもできるだろう。

全体的には、伝統的な「ミサ曲」の形式に完全に則っていて、宗教音楽としても聴くことができる。歌はラテン語の賛美歌だけではなく、英語の台詞も交えたオリジナルのストーリーになっている。そして、このストーリーの出来栄えが、また泣けるほど素晴らしい。

主人公はギターを抱えた司祭。司祭は神の愛を歌にして説いていくのだが、民衆は神の存在を信じようとしない。そんな司祭と民衆のやり取りで曲は進行していくのだが、この音楽的なやり取りが圧巻で、先にも述べたように、オーケストラ、ジャズ、ブルース、ロックなどのありとあらゆるジャンルの音楽が次々に現れる。「退屈」というものをまったく感じさせない。ポピュラリティとシリアスのヴァランスが、絶妙に図られている。

司祭と民衆の軋轢はどんどん増していき、ついには暴動のような嵐を巻き起こしてしまう。その嵐に飲み込まれた司祭は、ついに神の存在に疑問を抱いて「壊れて」しまう。すべてが崩壊し、沈黙が支配するステージに、静かに天使の歌声が降り注いでくる。天使の少年たちは聴衆の方までもやってきて、優しく触れる。それを「次にまわしてください」と、安らぎを全員で共有する。そして「アーメン」の祈りとともに曲は静かに終わる。

ストーリーはある意味では「ベタ」なものだけれど、やはりバーンスタインの信仰とか愛とかが見事な形で昇華された作品だと思う。最後の「アーメン」の瞬間は、「あぁ、キリスト教徒になるのも悪くないなぁ…」とふと思ってしまうくらいの、満ち足りた瞬間なのだ。そんなわけで、クリスマスのときくらいは、この曲を聴いてシンミリとしてしまう。

とにかく大掛かりな曲なので、日本で生演奏を観る機会などないだろうと思っていたのだが、15年前ほどだったか、この曲のライヴ演奏があったので、この曲を教えてくれたid:yskszkと聴きに行った。舞台で観る『ミサ曲』は、それはもちろん圧倒的に感動的だった。


この2年くらいは、クリスマスにゆっくりと音楽を聴く時間もなかったのでまったく気づかなかったのだが、比較的ノンビリと迎えられた今年は、ナップスターにも『ミサ』があることに、気づけた。

バーンスタイン:ミサ(1971)

バーンスタイン:ミサ(1971)

バーンスタイン:ミサ

バーンスタイン:ミサ

前者は初演直後の録音のようだが、最近でケント・ナガノが指揮したものがあったとは知らなかった。

クロスジャンル的な作品の好きな人には、オススメの1曲。バーンスタインの偉大な才能にぜひ触れてください。