PENNY LANE 24

テレビで観たSHIBUYA-AXのライヴと実際に観るライヴがどのくらい違うかが今回のポイント。前の感想は次のような感じ。

  1. 前半(ヒットメドレー)はイマイチ。これまでのフェスティヴァル向けの繋ぎ合わせのようだ。
  2. 後半(ニューアルバムを曲順に再現)はまぁまぁ。ラスト2曲もまぁ満足。
  3. 田島の歌が本調子に遠い。

結論から言えば、この日の印象はおおよそ「逆」となった。

まず田島の声は、「本調子に遠い」どころか、自分が今まで見たライヴの中でも一番ひどい状態だった。「R&R」でキーを低くしているのは前回どおりだったが、「こいよ」もキーを下げたまま。「Body Fresher」が終わると「すいません。今日は喉の調子が悪いです」と謝りのMC。結局は、「ふられた気持ち」を抜いて「恋の彗星」に突入してしまった。低音部は歌えているが、高音部になると声が出ずファルセットでフェイクしている。ヴォイストレーニングしてない人がカラオケを3時間やったような状態というか。

ライヴの前日に届いたファンクラブ「Prime Tune」の会報によれば、今回のアルバムはキーを高く設定して叫ぶようにして歌う曲が多かったせいで、ツアー前のリハーサルの時点でこれまでにないような喉の潰し方をしてしまったのだそうだ。それがツアー終盤のSHIBUYA-AXの時点でも完全には治らなかったということになるが、その後2週間のブレーク期間を経てもダメだったとは。これはよほど酷い壊し方をしてしまったのだろう。だからといって、「プロとして…」という非難をしながら醒めてしまうことはせず*1、むしろこの局面をどうカヴァーするのだろうかという風に興味を移して観ていた。

前は「退屈さえ感じた」前半は、実際に観ればライヴ感が出ていてそこそこ乗りもよく、気がづいたら「ハーレムノクターン」(前半と後半の間奏曲)になっていた。喉の調子に合わせ、すべての曲のキーを下げたのも幸いしたと思う。音の薄さを感じたアレンジも、この小さいハコではなぜだか不足感がない。もともとこのくらいの大きさを想定したアレンジであって、AXでは「広すぎた」のではないか? また「ふられた気持ち」は外されてしまったが、あのバカみたい(褒)な絶叫曲を外したのはいい判断だったと思う。もちろん聴けなかったのは残念だが、まぁ1回も聴いてないわけでもないし。7曲になったのも、むしろ前半全体のヴァランスがよくなったような印象だった。(繰り返すが「ふられた気持ち」が余計な曲なわけではない)

アルバム再現の後半は、逆にちょっと不満。自分だけが感じたのかもしれないが、まず「沈黙の薔薇」がなんだか物足りなかった。どこがどう、と指摘するのは難しいのだが、アウトロのワルツの部分がなんだか空回りしている感じ。今にして思えば、この日の喉の状態は、前2曲のようなガナっても様になるような曲だったらなんとかなったが、「薔薇」のようなデリケートな曲を歌うには厳しかったのかもしれない。

それを「死の誘惑のブルース」で盛り返すのはよかったが、その後がなんと「赤い街の入り口」をパスして「ひとりぼっちのアイツ」に。「誘惑」と「赤い街」の"狂った"アレンジは、後半のクライマックスの一つなので、そこを削がれてしまっては物足りないのも当然。うん、「赤い街」はこの日の喉ではとても歌える状態ではないのはわかるんだけど、やっぱりもったいない。というか後半は、どの曲を抜いてしまったとしても、それぞれに不満が残ったことだろう。歌えなかった時点でアウトだ。

SHIBUYA-AXではMCはほとんどなく淡々と演奏していたが、今回は合間合間にポツポツ挨拶していた。とくに「Yen」を始める前には「どうもお久しぶりです!」と割と長めのご挨拶。「喉の調子が悪くてスミマセン。最終日ですから喉が裂けるまで歌います!」のMCに観客大喜び。

「だまされて とられてしまった」の後で「気をつけて」とポツリ即興。カバンくん…。

「夜の宙返り」と「鍵、イリュージョン」。歌唱的には満足のいくものではなかったけれど、生で聴けてよかった。しかし、「水の音楽」のときも思ったのだが、あの2曲はライヴで録音と同等の感動を呼び起こすのは不可能なのではないか。フルトヴェングラー「第九」とかグールドのゴルトベルク変奏曲とか*2、レコードの中に「音楽の神様」が刻印されてしまうことはしばしばあることで、この2曲もそういう類の曲なのだろう。

アンコール。「後半」に若干不満があったので少し気持ちが引きかけていたのと、もうだいぶ疲れているだろうとことであまり期待していなかったのだが、これが意外にもよかった。イアン・デューリーのカヴァーはキーが低めなので歌いやすそうでもあったが、別に思ったことが、この曲が今回のツアーのアレンジの核かなということ。こういう小さめのハコで、気の知れた仲間とグダグダと歌っているくらいの軽いノリが、実は今回のツアーでやりたかったことなんじゃないかと思った。喉を潰した時点で、ハイテンションなクレイジーさは捨ててしまっても、実は良かったのではないかと。というか、次のツアーが半年後くらいにあるなら、こういう風にやってほしいなと思った。呑んだくれの酔っ払いツアー。それなら酒焼けした声で歌ってもオッケー(笑)。

それが終わると「みなさんにいいニュースがあります。そうでもないかもしれないけど」というMC。どっちだ!?と思ってると、「先日、木暮君が結婚しました!」との報告。これにはびっくり。だって前回のライヴはテレビで観たSHIBUYA-AXで、そこではそんなことはおくびにも出していなかったから。「結婚式で挨拶もします。新郎とは高校時代からの友人で…」という冗談も飛ばし、会場はいっそう和やかに。それを記念してか、田島は引っ込んで木暮ヴォーカルによる「ラジオ」(ヒックスヴィル)を特別演奏。オリジナル・ラヴのライヴで田島が歌わないなんて(もちろんインストは抜いて)、たぶん初めてのことだろう。

ラスト3曲はようやく「ライヴが得意」*3オリジナル・ラヴになった。「GOOD MORNING GOOD MORNING」の吐き捨てるような悪ノリ具合だとか、「Jumpin' Jack」の相変わらず滅茶苦茶なコール&レスポンスだとか、「4回戦ボーイ」で最前列の柵によじ登る具合だとか。そうなんだよね、こういう「笑い」がなければ田島のライヴじゃない。本編で感じていた自分の不満は、実はアレンジ云々とかの音楽性じゃなくて、こういうアホでなんでもない理由なのかもしれない。

最後は千秋楽らしく、メンバー全員で何度も最敬礼して終了。客電も点いたが、やはりアンコールの声援は止まず。3分くらいしてようやく田島登場。しきりに喉のことを謝り、札幌が久しぶりだったことも謝り、「今日は特別に」とは"言わず"(このもったいぶった一言がなかったので、かえって気持ちからのアンコールというような気がした)、「欲しいのは君」を演奏。歌い終わると「来年も来ます」と言い残し、終幕。

この日の田島はなんというか、恐縮している感じだった。喉の調子が悪いのを引け目に感じていたのだろう。でも卑屈ではなかった。あんな状態にもかかわらず本人が楽しそうに演奏していた。それが本当に救いだった。この日の演奏はとても最上のものではなかったけれど、全体としては楽しいライヴだった。

*1:それをいうなら、キャンセルをしなかっただけでも充分だろう。そのくらい悪い状態だった。

*2:なぜかこういうときって、ポップスでの例が挙げられないんだよな。

*3:田島が今回のプロモーションでよく言っていた言葉。