サントリーモルツ「4水系セット」
言われるまでもなく、水はビールに大きく影響する。
古くからのビールの名醸地は、名水の土地でもあった。イングランドのペールエールは、トレント川の硬水と硫酸カルシウムがホップの苦味を引き出した。チェコ発祥のピルスナーは、ピルゼンの町の軟水がなければ今のような味わいのビールにならなかったといわれる。ドイツのミュンヘンでモルト風味のビールが発展したのは、ミュンヘンの水がホップの苦味に悪く影響するためだったという。現代は、醸造技術の発達によって土地の水に合わせたビールを造る必要はなくなったが、あるスタイルのビールが造りたければその水質をきちんと調整するようでなければ*1、むしろ良心のある醸造とは言えない。
さて、サントリーは最近天然水100%仕込をビールの売りとしている。モルツの場合、ラベルにも「〜水系」と書いて、水の質の良さを強調している。そこでこのような「4水系セット」というのも出ているわけだ。
飲み比べてください。
4つの天然水から、4つの味のモルツ。
ということで、酔狂にも飲み比べてみました。
- 赤城山水系:関東平野を臨む赤城山。雄大な姿を誇るその大地は、豊かな深層地下水をかかえています。
- 丹沢水系:神奈川県の屋根と呼ばれる丹沢山地。1000mを越す峰がいくつも連なる奥深い山々は、命を潤す、美味しい水の宝庫です。
- 天王山・京都西山水系:京の都を臨む、京都西山。そのなだらかに続く峰は、昔から水の良い土地だと言われてきました。
- 南阿蘇外輪山水系:世界最大級のカルデラを持つ阿蘇の大自然は、天然水の宝庫です。
製造年月はすべて2004年12月上旬(ちょっと古い)。テイスティングは缶から直接。
3がちょっと口当たりが柔らかい。2が少し甘みが感じるか。
だけれども、はっきり言って気のせいの範疇。大差ないです。
だってほら、上の説明はもちろんのこと、サントリーのサイトhttp://www.suntory.co.jp/beer/malts/design/index.htmlでさえ、「水の味」には一言も触れられていない。
そもそもこれは、大差があるようでは逆にサントリーの技術力が疑われてしまうところだ。水の個性に負けてしまうようなレシピなんて、そのビールの底力のなさを露呈してしまっているだけ。もちろんそんなことはない。このセットは、「水が違えど同じ味を提供する」という大手ならではの技術力の高さを証明した、ということに尽きるわけだ*2。
じゃあ結局「水系」って何なの?といえば、それは「イメージ」。でもイメージだけで美味しいと思えるのなら、それはそれで幸せなことじゃあないですか*3。