TEMPLE OF THE DOG『Temple of The Dog』

Temple of the Dog
私もそれほどのめりこんだわけではないにしても、シアトルのグランジは、日本では本当に人気がないよなと思うことがある。NIRVANAがその代表と思われていることはもとより、SOUNDGARDEN知名度のなさにも驚く。猫も杓子もカート・コバーンの名前は知っているのに、稀代のヴォーカリストChris Cornell*1の名前は知られていないも同然。テツ山内の話題は出ても、ヒロ・ヤマモト*2の話になることはない(時代が違うっての)。
そしてなにより、この感動的なアルバムがほとんど知られていないことには、「ロック・ストーリー」が大好きなこの国民性を鑑みても、なんだか拍子抜けにしか思えないのだ。*3

このアルバムの背景は少し深い。1980年代末のシアトルでは、サウンドガーデンと、MOTHER LOVE BONEという2つのバンドがシーンを引っ張っていた。ところが、マザー・ラヴ・ボーンのヴォーカリスト Andrew Wood が、1991年にオーヴァードーズにより頓死してしまう。突然のバンド解体という危機に直面したメンバーの Stone Gossard(G)と Jeff Ament (B)は、 サウンドガーデンから Matt Cameron(Dr)と、アンドリューの親友でもあった 先述のクリス・コーネルと一緒に、アンドリュー追悼のための即席バンドを結成する。それがこの「TEMPLE OF THE DOG」だった。
そして、このアルバムをきっかけに、PEARL JAMが結成される。グランジの中心人物は、そのヴォーカリストEddie Vedderであって、カート・コバーンではない。カートの訃報を聞いたとき、自分は「エディの間違いじゃないの?」と思った。そう思わせるくらい、当時のパール・ジャムはキケンなバンドだったし、伝え聞く限りアメリカでの影響度は大きかった。

要するにこれは、SOUNDGARDEN meets PEARL JAMというわけで、まさにグランジを象徴する作品なのである。即席バンドではあるが、単なる寄せ集めではない。楽曲のクオリティは異様なほど高く、捨て曲などまったくない、音楽の神が憑依している一枚である。1曲目の「Say Hello 2 Heaven」のクリスのシャウトは、サウンドガーデンでさえも聴くことのできない、天上からの叫びだ。この国でサウンドガーデンNIRVANAくらいに知名度があれば、きっとこの曲は神の御業のように崇められることだろうに。3曲目「Hunger Strike」では、エディがリードヴォーカルをとっていて、クリスとのデュエットが聴ける*4

今回ナップスターで10年ぶりくらいに聴いたが、はじめて聴いたときの感動をまったく同じように味わうことができた。泣ける。

さっきWikiで知ったのだが、ついにクリスはAUDIOSLAVEを脱退したようだ。やっぱりというかなんというか。RATM再結成なの?

*1:SOUNDGARDEN

*2:同じくSOUNDGARDENの結成メンバー。彼に代わって入ったベン・シェパードも沖縄出身だし、シアトルシーンは意外と日本と所縁が深い。

*3:身近にそういうあたりを好む友人が偶々いなかっただけ、という個人的な事情なのかもしれない。それならばそれでいい。しかしそれにしても、このバンドについて嬉々と語っている人に逢ったことがないし、サウンドガーデンだって今日自分が登録するまではてなのキーワードにさえなかった。

*4:ここをお読みの大半の方にわかりやすく喩えれば、ピチカート・ファイヴの『月面軟着陸』の「これは恋ではない」のような豪華さである。